2002.11


琴庄神楽団(きんしょうかぐらだん)
菊本 靖彦 さん

 
 神楽といえば、まだテレビも一般化していない時代に、子どもたちにとって年に一度の秋祭りとともに、楽しみにして待ち焦がれていた娯楽のひとつでした。そして、古くから各地で伝承されてきた伝統文化として、今まで郷土の人々によって愛され親しまれ受け継がれてきました。25歳の若さでたくさんのファンを持つ菊本靖彦さんも神楽に魅せられた一人です。本業の大工の仕事をしながら、山県郡豊平町の琴庄神楽団で活躍中の菊本さんに神楽に対する熱い思いを語っていただきました。


菊本さんが神楽を始められたきっかけは何ですか?
 父も神楽をやっていたので、子どもの頃から父の舞台をよく見に連れていってもらい、いつも身近に神楽がありました。お宮参りの着物をまとって神楽の舞を踊ったり、幼稚園では、昼寝の時間に布団をぐるぐる巻きにして、八岐大蛇(やまたのおろち)を退治するまねをしたりして遊んでいたようです。自分でもはっきりした理由はよく分からないのですが、舞台の迫力とかっこよさのとりこになったんだと思います。
 高校時代、当初寮に入っていたのですが、どうしても地元で神楽がやりたくて、寮を出て自宅から通学を始め、17歳の時、念願の神楽団に入りました。
初舞台は何歳の時、どんな演題をされたのですか?
 18歳の時、豊平町神楽競演大会に出演したのが初舞台です。恥ずかしくて下ばかり向いていたのを覚えています。
その当時僕の父は病気療養のために入院中で、地元の「そばまつり」の舞台を見てほしかったのですが、直接会場には出向くことができませんでした。生死の境をさまよっていましたが、初舞台の前に手を握って送り出してくれました。母が病院に残って、僕の舞台を想像しながら、父にその模様を実況中継してくれたようです。実際の舞台は姉がビデオに撮ってくれて、その夜ビデオを見た後、父は亡くなりました。亡くなる2、3日前に「靖、神楽がんばれよ。じょうずになれよ」と言ってくれたことは一生忘れないと思います。
仕事をしながらの練習は大変でしょうね。
 神楽団の練習が週3日、夜の8時半ごろから11時ごろまであります。少しずつ先輩から教えてもらったり、人の動きを自分でまねて練習していきます。琴庄神楽団は雰囲気が和やかで、縦のつながりがしっかりしているので、とてもやりやすいです。団長さんが「人気が出ても、てんぐになるなよ」といつも喝を入れてくれます。11時に練習が終わった後も、納得いかない時は家の庭で夜中の1時ころまで練習しています。どんなに忙しくても、やめたいと思ったことはありません。
本番の時は、夜の10時から午前3時、4時まで舞って、それから衣装を干したり、時には舞台を崩したりと、後片付けをするので、最終的に終わるのは午前5、6時なることもあります。1時間くらい寝て仕事に行くこともあるんですよ。秋祭りの季節は大変ですが、職場の人も理解してくれているので助かります。
菊本さんをそこまで駆り立てる神楽の魅力は何でしょうか?
 舞台に出たときの緊張感、終わった後の充実感がすばらしく、一度舞台に立つと病みつきになります。好きなことなので、ストレス発散にもなるし、また仕事を頑張ろうという活力にもなります。
 お客さんの反応は、何より励みになります。拍手をいっぱいもらえるのは、もちろんうれしいのですが、息を飲んで黙って釘付けになって見てくれているお客さんの姿を見ると神楽をやっていて良かったと感無量になります。演じる人たちと観る人たちが一体となってその場の雰囲気を盛り上げていくんです。いつも観にきてくださるファンの方がいて、本当に幸せです。
 1997年に神楽の競演大会で2回も個人賞をいただいたことも自信になりました。一生神楽はやっていきたいと思っています。
これからやっていきたいこと、目指していることは?
 もうひと味もふた味も深みのある舞ができたらと思います。そのためには、自分自身で壁を乗り越えていかなくてはいけません。とてもしんどい作業ですが、一歩一歩練習を積んで、枯れた舞ができるようになりたいです。そのためには、ある程度経験年数も必要だと思っています。
 演題はスーパー神楽といった新しいものではなく、日本古来の舞をきちんと勉強して、それを後世に伝えていきたいです。子どもが将来それを引き継いでくれたらうれしいですね。


 
【琴庄神楽団について】
昭和48年に琴庄神楽同好会として発足、
昭和60年に神楽団として新たなスタートを切って、
今年で17年目を迎える。
 ●代表:竹村 初
 ●住所:広島県山県郡豊平町都志見
 ●電話:0826-83-0826

【舞台の菊本さん】
色っぽい目つきにドキッ!!
神楽の躍動感がみなぎる
「土蜘蛛(つちぐも)」胡蝶役
/1997年10月5日公演
「滝夜叉姫」姫役
/1998年12月29日公演
きらびやかな神楽の衣装、
一着150万するものもある
面をつけると悪者に大変身
「悪狐伝(あっこでん)」
玉藻前(たまものまえ)
/1999年10月10日公演
「悪狐伝(あっこでん)」
玉藻前(たまものまえ)
/1999年10月10日公演

【11月の公演予定】
■ 田の尻 秋大祭
日時/場所 11月2日(土)/筒賀村 田の尻
■ コムズアサパーク公演

日時/場所 11月4日(月)/コムズアサパーク

■ 琴庄祭り

日時/場所 11月10日(日)/豊平町 琴庄親和館


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